「なにもいわずにもらってください」 ドンと目の前に置かれた花籠に、劉輝は目を丸くした。 「元はといえばあなたが原因なんですからね。責任をとる義務はあると思います」 「余が?なぜだ」 「秀麗に花を贈ったでしょう」 ズバリ指摘され、思い当たる節があった劉輝はああと素直に頷いた。 「どこかの匿名希望さんが花を贈ったせいで、貴陽紅家本邸は花屋敷になってしまったんですよ。だからその責任をとって欲しいといってるんです」 「ちょっと待つのだ絳攸。話がさっぱり見えないのだが」 視界を防ぐように置かれた花篭を机案の隅に移動させて、腕を組んで見下ろしてくる側近をおずおずと見上げる。 理由はわからないなりにも、怒られた子犬のように縮こまっている王を見下ろし、絳攸はふーっと大きなため息をついた。 黎深に呼ばれ庭院の花を片しておくようにといわれた後―――山となった花を前に絳攸はうんざりと肩を落とした。 これを片付けるのかと思うだけで気が重い。 一番簡単な方法はまるごと廃棄することだが、それでは盛りのところを引っこ抜かれて集められた花達が哀れである。 仕方なく家令に命じて紅邸の至る所に活けさせたものの、まだたっぷりと残ってしまった花の処分に困り、結果六部の各部署に差入れの名目で送りつけることにした。それで大方片付いたが、最後の最後に残った一籠を、絳攸は自ら主上の執務室に運んできたのである。 「これで最後なんです。受けとってくださいますよね」 ほとんど脅迫に近い笑みを浮かべた側近に、劉輝は引きつった笑みを返した。 「わ、わかった。貰っておこう。うん、なかなか可愛らしい花ではないか」 「そうしてください。時鳥草というんですよ。ご存知ですか」 「いや、知らない。そうか、そういう名前があるのだな」 ふうんとひとつ頷いて、花篭の中を覗き込む。 「………それにしてもこの花のどこが時鳥草なのだ?」 色だって紫だし、共通する部分があるようには思えない。 首をかしげていると、一茎掴みだした絳攸が花弁を指差した。 「ここに斑点があるでしょう。これが杜鵑の胸の模様に似ているからそう呼ばれているようですよ」 「それはまた…ほとんどこじつけのような…」 「そうですね。私もそう思います」 古人の奥ゆかしい感性なのかもしれないが、ちょっと無理があるんじゃないかと思わないでもない。 苦笑しながら差し出された花を受け取ったところで、入室をおとなう声がした。 「藍楸瑛まかりこしました。やぁ絳攸、早いね。………それは?」 一礼し、にこやかに入室してきた側近の目が机案の花篭にとまる。 かくかうしかじかでと説明を聞いた楸瑛は、面白そうに眉を上げた。 「へぇ。あの方らしいねぇ。主上、私も少し頂いてもよろしいでしょうか」 「ああもちろん。兵舎にでも飾るのか?」 「私はそんな無粋なことをしませんよ」 花といったら女人でしょうと笑う楸瑛を、絳攸が苦りきった顔で睨む。 友人の呆れた視線などどこ吹く風で、掬い取った花の香りを愉しんでいた楸瑛は、時鳥草の花言葉をご存知ですかと訪ねた。 「いいや知らない。なんというのだ?」 「永遠にあなたのもの――というんですよ。なかなかに情緒的でしょう」 「いっておきますが、私が持ってきた花はそんな意味深なものではありませんからね」 楸瑛が艶やかに微笑めば、隣から即効で釘が刺される。 いい組み合わせだと当分に側近達を眺めた劉輝は、ほにゃらと笑った。 「どんな意味でもいいのだ。花をありがとう、絳攸」 「いいえ…あまり物ですし…」 素直に礼を言われると、あまり物を押し付けただけの絳攸としては逆に居心地が悪い。 目を逸らした側近にもう一度微笑みかけて、立ち上がった劉輝は作りつけの戸棚から小ぶりの花瓶をとりだした。 水差しから水を移して、机案の隅に置く。 手にしていた一輪を活ければ、見慣れた執務机案が少しだけ華やいだ。 それだけでなにやら元気がでてくるから不思議である。 「それでは本日も政務に励むとするか」 うーんと伸びをした劉輝を見る吏部侍郎の目が、すぐさま仕事用のそれに切り替わる。 いつもの定位置に腰を下ろした楸瑛が、からかうような笑みを浮かべた。 「おや、珍しくやる気ですね、主上」 「珍しくは余計なのだ。余はいつでも政務に励んでいるぞ」 「それならばそのやる気とやらを見せてもらいましょう」 さっそく腕に書翰を抱えてきた絳攸が、優先事項の読み上げ始める。 とうとうと読み上げられる内容に耳を傾けながら、今日も頑張ろうと劉輝は筆を取った。 双花と王の組み合わせが好きです。 無駄に続きます。 TOP/ モドル/ ススム |
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