このお話は 楸絳 です




「舞い落ちる紅葉…日に日に寒さを増す風。秋というのは人恋しい季節だと思わないか絳攸」
「お前の頭はいつだって常春だろうがっ」

腰に伸ばした手をぺしりと払われて、苦笑した楸瑛はちょっと肩をすくめた。

「あいかわらずつれないねぇ。私はいつだって君のことを想っているというのに」
「それは生憎だったな。俺の頭の中は急ぎの懸案事項で一杯だ。だれかさんが仕事をしないせいでな!」

ギロリと睨んだ先には、散りゆく紅葉を見つめてため息なんぞついている主人がいる。 物思いに沈んだその横顔は哀切を感じるものがあるが、口を開けば「秀麗」としか出てこない劉輝の恋わずらいに、そろそろ絳攸の堪忍袋の緒は限界を迎えていた。

「あいつが腑抜けになっているせいで未裁可の書類が山積みだ。肝心の主上がこの調子じゃいつまでたっても終わらない。吏部の仕事も立て込んでいるというのに…!」

書類を握る手がわなわなと震えている。
鉄壁の理性が実はとても短気であることを知っている楸瑛は、怒れる同僚の肩に宥めるように手を置いた。

「まぁまぁそう興奮せずに。眉間に皺が寄ってるよ絳攸。そんな顔をすると君の大好きな養い親にそっくりだねぇ」

仕事をしないで有名な吏部尚書と絳攸の間に血の繋がりはない。
けれどふとしたときの仕草や表情が重なって見えるのは、養父子といえど親子だからだろう。 案外血縁よりも過ごした時間の長さこそが、親と子を関係付ける要因なのかもしれない。

「あれでもう長いこと秀麗殿に会っていないからね。すこしぐらい大目にみてあげようじゃないか。微力ながら私も手伝うから」
「本当だな?こき使うぞ」
「もちろん。君のためになることならなんでも。でも手加減してくれると嬉しいけどね」

武官に転向する以前は文官として国試及第を果たした男である。
本命がいまだ腑抜け状態とはいえ、力強い味方を得たことで絳攸の機嫌が僅かながら上昇する。 眉間の皺が消えた同僚から書類を受け取りながら、それにと楸瑛は悪戯っぽく笑った。

「急ぎの懸案事項が片付けば、私のことを考えてくれるのだろう?」
「は?」
「だって君、さっきそういったじゃないか」
「っ!」

いつだって君のことと想っている――そう告げた男に対して応えた台詞が頭の中によみがえる。
そういう意味じゃないと否定しかけた絳攸の先をとって、ぱちりと片目を瞑った楸瑛が耳元で息を吹き込むようにして囁いた。

「楽しみにしてるよ」

言葉と共にするりと腰を撫でた手に絳攸の肌が赤く染まる。
握りつぶさんばかりに書類を握り締めて、いまや庭院のもみじのごとく真っ赤になった絳攸は力いっぱい叫んだ。

「やっぱりお前は常春だーーーーー!!!!」




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(2009/05/09)


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